『香港、華麗なるオフィス・ライフ(華麗上班族)』

●『香港、華麗なるオフィス・ライフ(華麗上班族)』
(監督:杜琪峰(ジョニー・トー)/出演:張艾嘉(シルヴィア・チャン)、
陳奕迅(イーソン・チャン)、王紫逸(ワン・ズーイー)、郎月婷(ラン・ユェティン)、
周潤發(チョウ・ユンファ)、湯唯(タン・ウェイ) 他)
『スリ(原題/文雀)』の時点で杜琪峰(ジョニー・トー)監督はミュージカル好きという可愛い一面が判明していたのですが、それを匂わせる程度ではなく真っ向勝負、しかもびっくりする程のアバンギャルドな舞台セットで仕上げたのが『華麗上班族』。
本作のプロデューサーでもあり女性社長役も演じている張艾嘉(シルヴィア・チャン)により2008年から2010年にかけて上演された舞台劇『華麗上班族之生活與生存』がオリジナル。
それが2013年に大陸でドラマ化。
撮影が6月に始まり同年9月に撮影完了……しているのにも関わらず実は未だ放映されていない模様。
どうやら2016年にはテレビ放映されるようなのですが、それも正確な日時が決まっているのかどうかすら現時点では不明。
そういった大陸のテレビ事情が全然解っていない私にとってはとても不思議なシステムだったりします。
どうなることやら。

リーマン・ショックの陰の元、ビルが立ち並ぶ香港とも何処とも言えぬ架空のとある中心業務地区(でも駅の名称は「大香港」站!)にそびえ立つ高層ビルの99階にある会社『眾信集團』のオフィスの人間模様を描いているのがこの作品の概観。
そのオフィスで女社長として切り盛りしているのがシルヴィア姐さん。
社員であるのが陳奕迅(イーソン・チャン)や財務部の湯唯(タン・ウェイ)、そして取締役会長が周潤發(チョウ・ユンファ)兄さんというスペシャルな会社なのです。
そこへ入社してくる男女の新人ふたりが王紫逸(ワン・ズーイー)と郎月婷(ラン・ユェティン)。
実はこのふたり、トーさん映画に出演経験ありなのです。
そう、阿祖(アジョー)と小敏(シウマン)という、『名探偵ゴッド・アイ(盲探)』でキモとなるふたり!
正直な話、前出の皆さんが素晴らしくスタァ☆な為に余りにも地味に感じてしまい、少々可哀想とも言える辺りがこの映画の全てを表しているとも考えられます。
つまり見事な程の社畜映画となっているのです。
正直な話、リーマン・ショックの影響を受けて……という今更感がある内容なのですが、そこに香港の社畜事情をこれでもか!とこってり濃厚に描き、しかもそんな厭な内容をわざわざミュージカル映画にしてしまうという、とち狂ってるとしか思えない無駄感。
それって最高ではないですか!
無駄そして意味の無い事って超楽しい……!
舞台劇をテレビドラマと映画というふたつの媒体で描き直すのに差をつけるのは当然でしょうが、本来、よりリアリティに近い文法となるのが映画なのですが、オリジナルの舞台よりも数十倍増しで別次元の仮想の何かに行ってしまっているのです。
この映画もシルヴィア姐さんが脚本となってはいるのですが、その下に続くもう一人の脚本家の存在、それはトーさんの片腕でもある気の狂ったような脚本を書く韋家輝(ワイ・ガーファイ)……。
シルヴィア姐さんがメイン脚本を書き、ワイさんがお直ししたのかなと、この出来を見てしまうと考えずにいられないのです。
そんな社畜映画で何がそんなに大変な事になっているのか。
正直な話、観て!としか言い様がないのですが、単なるミュージカル映画ではないのです。
全シーン、何故にこんなセットになったのだ!?という衝撃的なセット。
開始3カット目から「なんなんだ、この絢爛豪華な『ドッグヴィル』は!」……と、だだっ広い何もない撮影スタジオに組まれた梁だけで構成された状態の病院のシーンに度肝を抜かれ、観ていくうちに次第に頭の中に浮かんだのが「私、この空間、よく知ってる……。アーロン・クォックのコンサートだ……!!」。
つまり共に張叔平(ウィリアム・チャン)の美術。
言うまでもなくアーロンコンサの方が攻めまくった舞台設計ではあるのですが、文法の違いでコレを映画に持ってくるとは。
因みに説明しておきますと張叔平というのは香港のトップとも云うべきアートディレクターで、『花様年華』など王家衛(ウォン・カーウァイ)作品のあのうっとりする様な美術、衣裳、そして編集を手掛けている御方。
そんな人が別方向に本気を出すとパリっ子もびっくりなアヴァンギャルド・アートが出来上がってしまうという。
つまり回転しないスケルトンステージのアーロンコンサの舞台セットでイーソンが高らかに歌い、マゾは一撃で殺られるタン・ウェイちゃんを堪能出来てしまうのです。
壁を排除し、梁しか残していないような削り取ったのに派手なこの前衛芸術セット。
住居の奥に屋外が抜けて見えたりするのですが、いきなり婆ちゃんが段ボールを大量に積んだでっかいリヤカーを押して通り過ぎるという香港の路上ではお馴染みの光景が登場し、生活感の無いセットとの余りのギャップに受け身が取れなくなるほどのシュールさ。
実はもう1シーン、そういう事が起きていたのですが、こちらのインパクト勝ち。
御覧になった暁には御確認を。
ここでひとつタン・ウェイちゃんの事も。
とにかく素晴らしい!
今まで以上に素晴らしい!
もうもうもうもうタン・ウェイちゃんに恋しちゃう。
恋に堕ちちゃう。
それ程に魅力が炸裂しているのです。
彼女が魅力的なのは毎回の事なのですが今回は特に!
似ても似つかないのは解っていつつも、彼女の真似をして真っ赤なルージュを引き、ヴィヴィアン・ウエストウッドの眼鏡を掛けたくなるのです。
タン・ウェイちゃんに恋しなかった人、そして何よりもこの壮大なる無駄感を楽しめなかった人は人生を損してると思います。
『華麗上班族』とはそんな映画なのです。
出来の良し悪しとはまた別問題として。
……というのも実は楽曲担当をしたのが台灣の大御所ミュージシャン、羅大佑(ルオ・ダーヨウ)。
『GF*BF(女朋友。男朋友)』のあの印象的な名曲『家』は映画の時代とテイストに合っていた為に非常に良かったのですが、正直な話、『華麗上班族』のアバンギャルドな画面には不釣り合いと感じる程にもっさりと垢抜けず、既存のミュージカルでも使われていそうな予想に何ひとつ反しない楽曲の数々となってしまっていたのです。
なのに何故にこの人を起用したか?
だってシルヴィア姐さんの元カレだからね!という大人の懇ろな関係がそこには……。
元カレに仕事を振るシルヴィア姐さんのやり手っぷりは流石でございます。
安く請け負ってくれたのかな?とか、無茶な短期間の日程で曲作りを頼んだのかな?等、邪推は尽きないのでありました。
ところが。
そんなもっさりな曲もかのイーソン・チャンが歌うとなると話は別。
歌唱力による表現力の高さがあると力強さで楽曲の欠点までもをねじ伏せ、更には持ち上げてしまう凄さ。
ただ、一番残念だったのは盧海鵬(ロー・ホイパン)がエレベーターのドアボーイ♡を演じているのですが、いきなり歌い出し、くるくるっと華麗なステップでエレベーターに案内する位の事はして欲しかった……。
ほいぱんは歌って踊れる人なのに!(大抵、何かのパロディでコスプレ)
そんな悶々が晴れない楽曲をどうすればいいか?と勝手に提案致します。
このアヴァンギャルドなセットにタメを張れる音を作れる人が香港にはいるではないですか!
そう、新しいことを次々と取り入れてはピコピコな音を作りまくっていた人、それが雷頌德(マーク・ロイ)!
知らない方に御説明致しますと、当然、様々な香港明星に楽曲提供をしているミュージシャンではあるのですが、Perfume=黎明(レオン・ライ)にとっての中田ヤスタカ=雷頌德、といった存在の人なのです。
こんな適役が香港にいるにも関わらず、スルーしてしまうなんてもったいなさ過ぎ……。
因みにユンファ兄さんは主要メンバーの中で唯一、歌を披露しなかったのですが、それは「絶対に歌わない」と言った為、とシルヴィア姐さんが語っておりました。
そこで私や友人らの間では『周潤發 演唱會實況』というライヴ盤が即脳裡に浮かぶのでありました……。

演奏も会場の様子も全てがスゴいライヴ盤なので、万が一、どこかで見掛けた場合には迷わず購入して下さい。
持っているだけで一生語ることが出来ます。
歌い出す前の演奏からしてとんでもないことになっており、更には会場にいる親戚の子供達との緩すぎるトーク等々……。
刺激溢れるライブとなってます。
実は本作は3D上映もされていたのですが、現地でその上映で鑑賞出来た人は本当にラッキーだと思います。
ジョニー・トー作品とはいえ日本で一般公開は無い気がするので、是非ともソフトを手にしてみてくださいね。
華麗上班族2

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